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結果 |
(プロローグ)
そういえばこんなことがあった。某自転車店でのことだ。
燃焼系 「ペダルが欲しいんですけど。シマノとタイム、どっちがいいですかねぇ??」
黄身黄身 「んん?貧乏なんだからシマノにしとけよ。にやり」
燃焼系 「なんだとぉぉ!!俺を貧乏呼ばわりすんなぁぁ!!」
黄身黄身 「貧乏を貧乏と呼んで何が悪い!!この貧乏!!にやり」
燃焼系 「おのれぇ、貧乏を下等生物扱いしやがって。差別じゃないのかぁ!!」
黄身黄身 「世の中の貧乏に言ってんじゃない。貧乏というアダ名のおまえに言ってんだ。この貧乏!!貧乏!!貧乏!!にやり」
燃焼系 「それが客に向かって言うセリフかぁ。2チャンネルに投稿してやる!!」
黄身黄身 「だまれ!!そんなことしたらお前の自転車をシングルギアにしてやる!!にやり」
燃焼系 「そ、そ、そ、それだけはご勘弁を〜〜〜」
悪代官 「がっはっはっはっは!!よいではないか。よいではないか。ひっひっひ。にやり」
村娘 「なりませね。なりませぬ。あ〜〜〜れ〜〜〜〜〜・・・・・・・・・」
これは嘘のような本当の話(ほんのわずかフィクション)。
(10月1日)
逃げるのは夜と相場が決まっているが逃げるわけではない。石川県に向け出発するのだ。今回は今までで一番長い旅になる。よって国道でのロングランは不可能と判断し高速道路の料金所に向かう。なんと今回のオイラは贅沢にも高速道路を使うのだ。だれにも文句は言わせない。貧乏がなんだ。そうさオイラはハイウェイスターだ!!高速道路の料金ぐらい払えるところを見せてやるぜ(カード決算だが)。
順調に高速道路を飛ばす。眠気対策で何度も休憩を取り、どうにか目的のサービスエリアまで来た。時刻は午前3時。ここから会場までは約1時間。仮眠する。
(10月2日)
起きる。時刻は午前9時。出発。会場に到着。鉛色の空が無責任に雨を降らしている。HRTの方々を発見。挨拶をする。「燃焼系、寝過ぎだよ。」み、見てたのねぇ・・・(恥)。試走開始。Jシリーズのコースは全てが始めて。ゆっくり噛み締めるように一周する。テ、テクニカルや。しかも1周がかなり長く感じる。スタート直後にジープロードの上り、そしてシングルトラック。下りは木の根が散乱している。モストデンジャラスだ。油断したら簡単にハンドルを取られそうだ。なんちゅうコースだ。もう1周して試走終了。
さて、どうするか??無計画でここまで来たので途方に暮れる。そうするとウッチー氏より食事のお誘いがあった。喜んで承諾。そして宇部のDHライダーS氏と初対面を果たす。4人でやんややんやとしゃべり倒す。車で就寝。
(10月3日)
起きる。車での睡眠はまずまず。慣れたのかな??レースの準備開始。召集がかかる。スタート地点に向かう。何故だろう。まったく緊張していない。特別コンディションがいいわけでもないのにだ。レースをする精神状態ではない。よく分からないがそんな感じ。
<1週目>
スタート。しまった!!真ん中に陣取ったせいか前に出れない。しかし始まったばかりだ。隙をみて前に出ねば。ジープロードの上りに突入。フロントギアをインナーに落とす。ガチャ!!あれ??チェーンが引っ掛かる。ペダルを逆回転。再び踏み込もうとするがまた引っかかる。一度降りてチェーンを正しい状態に戻す。走り出す。くっそ〜〜!!なんでいっつもスタートがうまくいかないんだ。シングルトラックは大渋滞。お、遅過ぎる。しかも前に出れない。何やってんだよぉぉ。抜きどころであるセカンドトラックは平地だ。自分も飛ばすが周りも飛ばす。思うように抜けない。イライラ、苛苛。
<2週目>
よく分からない状態。意味不明。茫然自失。ゴール。
な、なんだこのレースは。も、もう終わりかよ。てか、疲れてない。放心する。長い間、頭の中を整理できない状態が続く。少し落ち着いてきた。自分にむかってつぶやく。「下手くそ」出てきた言葉はそれだけ。思考停止。会場を立ち去った。
兵庫県姫路市に友人がいる。以前から遊びに行く約束をしていたので立ち寄った。友人との再会でしばしレースの事を忘れることができた。一晩泊めてもらい朝には山口に向け出発した。高速道路を順調に走る。何が悪かったんだろ。悲劇のヒロインを気取った男は再びレースのこと思い出し考える。レース終盤を意識してインナーを使おうとしたのが悔やまれる。弱かった。下手だった。ただそれだけのことなのに、もっともらしい理由を模索している。
気がつくと広島まで来ていた。思えば危険な状態だった。目の前に牛が飛び出しても気が付かない状態で広島まで来たのだ(高速道路に牛はいない)。熊が飛び出しても気がつかなかっただろう(熊もいない)。サービスエリアに立ち寄る。トイレの近くに車を駐車する。ベンチにおっさんが座っている(年齢不詳)。目が合う。ぬううぅぅ。鉛を呑まされたような嫌な気分をしたがそのままトイレに向かった。
「あの〜〜」
な、なんだ!!は、話しかけてきやがった。近くで見るとますます年齢不詳だ。よれよれのキャップを被っているが、キャップの下からのぞく髪には所々白髪が混ざっている。肌はツヤツヤとして健康そのものだが、生気が感じられない。衰弱しているようだ。
「な、なんですか??」
「九州方面に行かれますか??」
「は??行くといえば行きますが・・・・(ヒッチハイクか??)。」
「実は私、沖縄から来たさ〜〜」
お、沖縄??そういえば話し方が・・・・・・妙だ。
「な、何かあったんですか??」
「私〜、広島に原爆ドームを見にきたさ〜〜。そしたらカバンをなくしてしまったさ〜〜」
おお!!このおっさんの話し方はまさしくTVなどで聞く沖縄の言葉だ(ちゅらさん参照)。
しかし聞き慣れない言葉に戸惑い、なんども聞きなおしながら話を聞いてみた。
ようするにこのおっさんは鞄をなくして無一文なのだ。彼は姉家族とともに福岡まで来た。そこから姉家族は韓国旅行に行き、彼は以前から見たかった広島の原爆ドームを見る為に広島までに来た。念願かなって原爆ドームを拝んだまでは良かったが、そこで鞄をなくしたらしい。焦ったおっさんはすぐに交番に向かった。しかし当然のように鞄など届いてはいない。この場合、届いているほうが奇跡だ。携帯電話もない。あったところで彼にとって唯一の身寄りである姉家族は韓国にいる。八方ふさがった彼は広島の町に放り出された。きっと広島の中心で何か適当に叫んだことだろう(想像)。途方に暮れながらも彼は考えた。とりあえず福岡まで行こう。3日後に姉家族と博多駅で待ち合わせている。彼の拠り所はそれしかなかった。
彼は高速バスの停留所に向かい運転手と交渉する。後で必ずお金を払うから乗せてくれ!!と頼む。断られる。いいじゃないか!!と切れる。順序が違うだろ!!と逆に切れられる。説教される。高速バスは立ち去る(運転手が正しい)。へこみまくった彼はヒッチハイクを思いつく。そうして島根県に向かう学生にここまで乗せてもらった。と、いうわけである。
初めのうちは不審者を相手に話している緊張した気分だったが、次第に彼の聞きなれない言葉に引き込まれ、話を聞き終わるころには少々哀れみの目で彼を見ていた。それにしても中途半端な場所で下ろされたもんだ。これからどうするんだ??んん??まさか乗せろってんじゃねぇだろうな。話の流れからいって間違いなくそうだ。なんてこった。ここまで話を聞いて何もしなかったらオイラが悪者じゃんか。ていうか警察に行けよ。警察なら金貸してくれるだろうが。こ、こんなおっさんほっといて柳井に帰ろう。オイラはレースで散々な思いをして沖縄県民にかまってる余裕なんてないのだ。さあ、さよならを言うのだ。さあ、さあ、言いなさい。
「と、とりあえず乗りんさい。」
な、な、何を言ってるんだ!!こいつがテロリストだったらどうするんだ。走り出した途端に拳銃を突きつけられるかもしれんぞ。国会議事堂まで行け、とか言われたらどうすんだ??
そんな思いとは裏腹に車は走り出す。拳銃か??ナイフか??じ、自爆テロか??「本当にありがとうございます。で〜〜じ疲れたさ〜〜。ワンはで〜じふら〜さぁ。」な、何語だ??『で〜じ』とは山口でいう『ぶち』に値するらしい。『ふら〜』とは馬鹿という意味だそうだ。
それから彼は解説を加えながら色々な話を始めた。沖縄での生活。仕事。遊び。家族。風土。米軍基地にいたるところでは彼の口調が強くなっているのに気づいた。福岡に近づけることに安心したのかいつしか彼は饒舌になっていた。そしてオイラも彼の話に聞き入っていた。
「で〜〜じ腹減ったさ〜〜。」
そうか、彼は昨日から何も食べてないのだ。パンがあったことを思い出し彼に差し出す。「食べんさい。」「あ、ありがとうございます。」彼はまったく躊躇せずに受け取る。はっ・・・!!い、いかん。いかんぞ。同情している。このおっさんに。沖縄で生まれ育ち、本土の人間とは違った空気を放つこのおっさんに同情している。『同情するなら金をくれ!!』という名台詞を思い出す(意味なし)。「うまいさ〜〜。本当にうまいさ〜〜。」おっさんは満足気だ。もういいじゃないか。オイラは十分してやった。あとはこのおっさんをどっかで降ろしてさよならだ。そうだ。そうしよう。
ふぅぅ。軽くため息をつく。そして出た言の葉は・・・・・、「今から近くの駅まで行きましょう。そこで博多までの切符を買ってあげます。」ばばばば、馬鹿馬鹿馬鹿!!ばばばの馬鹿ちゃんだ!!びびびの貧乏ちゃんだ!!同情する余裕なんてないだろうが。同情するなら金をくれ!!って、言うじゃな〜〜い(ギター侍、パニック)。ど、ど、どうかしてるぜ。俺が『で〜じふら〜』になってどうする!!
そんなこんなで岩国インターまで来た。高速道路から降りる。そして国道2号線を走って駅を探す。ここまで来たからにはしょうがない。とにかく駅を探そう。しかし行けども行けども駅の看板は見当たらず、とうとう下松まで来てしまった。「柳井から離れてますよぉ。こんなとこまで来てもらって悪いさ〜〜。」そんなことはオドレに会う前から分かっとるわい!!好きでここまでくるか!!そうだ下松駅で降ろそう。んん??下松駅ってどこだ??わ、わからん。
気がつけば徳山駅まで来てしまった。何をやってんだ俺は。あきれる。切符売り場で博多行きの切符を買う。3,260円だとぉぉ!! ぼったくってんじゃないぞJR!! 3,260円あったら何日生活できると思ってんだ。とっさに食費に換算してしまった。10日は食えるな。って、エンゲル係数が低過ぎるぞ!!ノリ突っ込みのオンパレードである。おっさんに切符を渡す。
「それじゃあ気をつけて。」
「ありがとうございます。本当にありがとうございます。」
体はでかいがどこか淋しさを感じさせる背中を見送った。次の瞬間彼を呼び止める。財布から千円札を取り出し彼に突き出す。
「少ないけど何か食べて」
再び、これ以上ないくらいの礼を述べ彼は立ち去った。ふぅぅ。自然とため息のような声が漏れた。開放感というより達成感なのかな。それから一度、大きく背伸びをして、びびびの貧乏ちゃんは柳井へ向かった。
(エピローグ)
ようやく家にたどりついたびびびの貧乏ちゃん。荷物を整理しながら改めて今日の冒険劇を振り返った。1,000円かぁ。本当に少ないな。彼が姉家族に会うまであと2日。どうすんだろ。もう少し渡せばよかったかな??いまさらのように彼の行く末を案じた。あれ以上何かしてやる義理など無いと言えばそれまでだが、不思議な魅力が彼に、彼の言葉にあった。だからこそあそこまでしてやったんだろうなぁ。例えるならオイラは農薬にまみれた綺麗な野菜。彼は無農薬の虫食い野菜。んん??なんか違うような気がするけれども・・・・・。おっさんどうしてっかなあ??なぜだろう。
映画「ライムライト」の一場面を思い出した。それは落ちぶれた老芸人と下半身が麻痺したダンサーの話。自殺をしようとするダンサーに老芸人はこう説く。
「人生は素晴らしい!!人生に必要なのは勇気と想像力・・・・・・・・それと、ちょっぴりのお金。」
おっさんに勇気と想像力があることを祈っているうちに、ようやくこの長い旅が終わったことに気がついた。